東洋医学概論⑧ ~問診・切診とは~

東洋医学の四診のうち、問診と切診について解説します。主訴や生活習慣を聞き取る問診、脈診・腹診など身体に触れて確認する切診の基本を、初学者向けにわかりやすく整理します。


目次

はじめに

前回は、四診のうち望診聞診について解説した。

今回は残りの2つ、問診切診について見ていく。

問診は、患者さんの話を聞く診察。
切診は、身体に触れて確認する診察。

どちらも、東洋医学において非常に重要な診察法である。

特に問診は、患者さんの症状だけでなく、生活習慣、体質、感情、睡眠、食欲、排泄などを幅広く確認する。
切診では、脈や腹部、皮膚、経穴などに触れ、身体の反応を直接確かめていく。

望診・聞診で得た印象を、問診と切診によってより具体的にしていく。
この流れを理解すると、東洋医学の診察がかなり立体的に見えてくる。


問診とは

問診は「聞き取る診察」

問診とは、患者さん本人、または必要に応じて家族などから症状や生活背景を聞き取る診察である。

問診では、主訴、症状、現病歴、既往歴などを聞き取り、証を立てるための情報を集める。

ただし、東洋医学の問診は「どこが痛いですか」「いつからですか」だけでは終わらない。

たとえば、肩こりが主訴であっても、

  • 冷えはあるか
  • 汗をかきやすいか
  • 食欲はあるか
  • 便通はどうか
  • 睡眠はどうか
  • 月経の状態はどうか
  • ストレスはあるか
  • 疲れやすいか
  • 口の渇きはあるか

などを確認することがある。

一見、肩こりと関係なさそうに見える質問も、東洋医学では体質や証を考えるうえで重要になる。


問診で確認する主な項目

問診では、主に次のような項目を確認する。

項目内容
主訴一番困っている症状
発症時期いつから始まったか
経過良くなっているか、悪化しているか
悪化・軽減要因何で悪くなり、何で楽になるか
寒熱冷え、のぼせ、熱感など
汗の量、寝汗、自汗など
食欲食べられるか、胃もたれがあるか
口渇のどの渇き、水分の取り方
睡眠寝つき、中途覚醒、夢の多さ
二便大便・小便の状態
月経周期、量、痛み、色、塊など
感情ストレス、怒り、不安、落ち込み
生活習慣食事、運動、仕事、睡眠時間

東洋医学の問診は、かなり広い。
なぜなら、症状だけでなく、その症状が生まれた背景を見ようとするからである。


「何がつらいか」だけでなく「どうつらいか」を聞く

問診で大切なのは、症状名だけを集めることではない。

たとえば「頭痛」といっても、東洋医学では次のように細かく確認する。

  • ズキズキ痛むのか
  • 重だるいのか
  • 締めつけられる感じか
  • 冷えると悪化するのか
  • 温めると楽になるのか
  • 天気が悪いと悪化するのか
  • イライラすると悪化するのか
  • 疲れると出るのか
  • 痛む場所はどこか

同じ頭痛でも、原因や背景は人によって違う。
痛みの性質、悪化要因、体質傾向を合わせて見ることで、証の方向性が変わってくる。

東洋医学では、病名よりも「その人にどのような偏りがあるか」を重視する。
そのため、問診では症状の細かい質を丁寧に聞き取る。


問診で重要な「寒熱」

冷えと熱感を確認する

東洋医学の問診で特に重要なのが、寒熱である。

寒熱とは、身体が冷えに傾いているのか、熱に傾いているのかを見る考え方である。

たとえば、寒に傾く人は、

  • 手足が冷える
  • 温めると楽になる
  • 寒い場所で悪化する
  • 顔色が白っぽい
  • 温かい飲み物を好む

といった傾向が出ることがある。

一方、熱に傾く人は、

  • のぼせる
  • 顔が赤くなりやすい
  • 冷たい飲み物を好む
  • 口が渇く
  • イライラしやすい
  • 便が硬くなりやすい

といった傾向が出ることがある。

もちろん、冷えと熱が混在する人もいる。
たとえば「足は冷えるのに顔はのぼせる」という状態である。

このような場合は、単純な寒証・熱証ではなく、気血水の偏りや上下のバランスも考える必要がある。


問診で見る生活背景

症状は生活の中で作られる

東洋医学では、生活背景も重要な情報になる。

どれだけよい施術や漢方を行っても、毎日の生活が大きく乱れていれば、身体は回復しにくい。

たとえば、

  • 睡眠時間が短い
  • 食事時間が不規則
  • 冷たいものをよく取る
  • 長時間座りっぱなし
  • ストレスが強い
  • 運動不足
  • 休むのが苦手

こうした生活習慣は、気血水の巡りや臓腑の働きに影響すると考えられる。

問診では、症状そのものだけでなく「なぜその状態になったのか」を探っていく。
ここに、東洋医学らしい見方がある。


切診とは

切診は「触れて確認する診察」

切診とは、患者さんの身体に直接触れて確認する診察法である。

漢方医学では、切診は身体に手を触れて診察することで、代表的なものに脈診腹診があるとされる。

鍼灸では、脈や腹部だけでなく、皮膚、筋肉、経穴、背部、手足の冷えや張りなども確認することが多い。

切診は、患者さんの訴えや見た目だけではわからない身体の反応を確かめる方法である。


切診で見る主なポイント

切診では、次のようなものを確認する。

項目内容
脈診脈の速さ、強さ、深さ、緊張など
腹診腹部の硬さ、張り、圧痛、冷えなど
皮膚温度、湿り気、乾燥、ざらつきなど
筋肉張り、硬さ、左右差など
経穴反応、圧痛、陥下、硬結など
手足冷え、熱感、むくみなど

切診では、患者さん本人が気づいていない反応に出会うこともある。
「押されて初めて、そこが張っていると気づいた」ということは珍しくない。


脈診とは

脈から身体の状態を見る

脈診とは、手首の橈骨動脈に触れて、脈の状態を診る方法である。

現代医学では、脈拍数やリズムを見ることが多い。
一方、東洋医学の脈診では、速さだけでなく、脈の強さ、深さ、太さ、緊張、滑らかさなども確認する。

脈診では、脈の速さ・強さ・深さ・緊張度などから病態を把握すると説明されている。

たとえば、東洋医学では次のような脈の見方がある。

脈の特徴考えられる傾向
浮いている表証、外邪の影響など
深い裏証、内側の問題など
速い熱証など
遅い寒証など
力がない虚証など
張っている気滞、痛み、緊張など
滑らか痰湿、食滞など

ただし、脈診は非常に繊細な技術である。
経験による差も大きく、脈だけで判断するのは避けるべきである。

脈は、緊張、運動後、食後、睡眠不足、感情の変化でも変わる。
そのため、脈診も四診全体の中で位置づけることが大切である。


腹診とは

腹部に触れて状態を確認する

腹診とは、腹部に触れて、硬さ、張り、圧痛、冷え、抵抗感などを確認する診察法である。

日本の漢方では、腹診が特に発達したとされている。腹診は日本で独自に発達した診察法と説明されている。

腹部には、身体の状態が反映されると考えられている。
胃腸の不調だけでなく、気の滞り、瘀血、水滞、虚実などを考える手がかりになる。


腹診で見る主な所見

腹診では、たとえば次のような点を見る。

  • 腹部全体の力
  • みぞおちの硬さ
  • 下腹部の力
  • お腹の冷え
  • 張り
  • 圧痛
  • 動悸の触れ方
  • 水の停滞感
  • 左右差

腹部が全体的に軟らかく力がない場合は、虚証的な傾向を考えることがある。
一方、強い張りや抵抗、圧痛がある場合は、気滞や瘀血、実証的な状態を考えることがある。

ただし、腹部の所見も体型、筋肉量、緊張、食後か空腹かなどに影響される。
ここでも、単独判断は避ける。


鍼灸における切診

経穴や経絡の反応を見る

鍼灸では、切診がとても重要になる。

なぜなら、鍼や灸を行う場所を決めるうえで、身体に触れて反応を確認する必要があるからである。

たとえば、

  • 経穴の圧痛
  • 皮膚のざらつき
  • 冷え
  • 熱感
  • 硬結
  • 陥下
  • 筋緊張
  • 左右差

などを見る。

教科書上のツボの位置だけでなく、その人の身体に実際に出ている反応を確認する。
これが臨床ではとても大切になる。

同じ「足三里」でも、人によって反応の出方は違う。
押して痛い人もいれば、力が抜けたように沈んでいる人もいる。
切診によって、その人の身体が今どのように反応しているかを確認するのである。


問診と切診をつなげて考える

聞いたことを、触れて確かめる

問診と切診は、別々の診察ではあるが、実際には深くつながっている。

たとえば、問診で「胃もたれしやすい」と聞いた場合、腹診でみぞおちの硬さや胃部の抵抗を確認する。
「足が冷える」と聞いた場合は、実際に足の温度や皮膚の状態を触れて確かめる。
「ストレスで肩が張る」と聞いた場合は、肩背部や胸脇部の緊張を見る。

つまり問診は、患者さんの主観的な情報。
切診は、身体に現れている客観的な反応。

この2つが一致すると、証を考えるうえで大きな手がかりになる。


一致しない情報も大切

一方で、問診と切診の情報が一致しないこともある。

たとえば、本人は「冷えはありません」と言っていても、実際に触れると下腹部や足先がかなり冷えていることがある。
逆に「身体が熱い」と感じていても、触れると末端は冷えていることもある。

こうしたズレは、診察上とても重要である。

患者さんの自覚と身体の反応が違うところに、不調の背景が隠れていることがあるからである。


問診・切診で大切な姿勢

決めつけず、確認する

問診では、患者さんの言葉を丁寧に聞く。
切診では、身体の反応を丁寧に確認する。

どちらにも共通して大切なのは、決めつけないこと。

「この症状ならこの証」と機械的に考えるのではなく、患者さん一人ひとりの状態に合わせて情報を集める。

東洋医学の診察は、マニュアル通りに当てはめるだけでは難しい。
同じ症状でも、体質や生活背景によって見立てが変わる。

だからこそ、問診と切診が重要になる。


まとめ

問診と切診は、東洋医学の四診の中でも、患者さんの状態を深く理解するために欠かせない診察法である。

問診では、主訴だけでなく、寒熱、汗、食欲、睡眠、二便、月経、感情、生活習慣などを幅広く確認する。
症状名ではなく、「どのようにつらいのか」「なぜその状態になったのか」を見ることが大切である。

切診では、脈診、腹診、皮膚や筋肉、経穴の反応などを確認する。
患者さんの訴えと身体の反応を照らし合わせることで、より立体的に証を考えられる。

望診・聞診・問診・切診は、それぞれ独立した診察法ではない。
4つを合わせて初めて、患者さんの全体像が見えてくる。

東洋医学を学ぶうえで、四診は単なる暗記項目ではなく、臨床の土台になる考え方である。
患者さんを部分ではなく全体で見る。
その姿勢こそが、四診を学ぶ一番の意味だといえる。


FAQ

Q1. 問診ではなぜ睡眠や便通まで聞くのですか?

東洋医学では、症状だけでなく体質や生活背景を重視します。睡眠や便通は、気血水や臓腑の状態を考えるうえで重要な情報になります。

Q2. 脈診だけで証は決められますか?

脈診は重要ですが、脈だけで証を決めるのは不十分です。望診、聞診、問診、腹診などと合わせて判断します。

Q3. 腹診はお腹の病気を見るためだけのものですか?

腹診は腹部疾患だけを見るものではありません。漢方では処方や証を考えるための重要な診察法として位置づけられています。


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