東洋医学概論④~経絡・経穴とは~

これまで①東洋医学とは、②気・血・津液、③蔵相学説と五臓六腑、と東洋医学の基礎理論を整理してきました。

今回は、東洋医学の臨床で必ず登場する 経絡(けいらく)と経穴(けいけつ) について解説します。鍼灸治療の理論的な土台ですね。

あざらし

解剖学で言う神経・血管・リンパ・筋膜のネットワークに、ちょっと近いような違うような…という不思議な概念。最初は「ふ〜ん」くらいで読んでもらえれば十分です。


目次

経絡とは

経絡とは、気・血・津液が全身を巡るために通る通路のこと。

東洋医学では、人体は五臓六腑と体表とが経絡で結ばれていて、内臓の不調が体表のツボに反映されたり、逆に体表のツボへの刺激が内臓に作用したりすると考えます。

経絡は大きく 経脈(縦に流れる本流)と 絡脈(経脈から枝分かれする支流)に分かれます。

  • 経脈:縦方向に走る主要な経路。十二正経+奇経八脈で構成される
  • 絡脈:経脈から分かれて全身に広がる細かい支流

イメージとしては、経脈が新幹線・在来線の主要路線、絡脈がそこから細かく分岐するバス路線、という感じです。


十二正経(じゅうにせいけい)

経脈のメインルートが 十二正経 です。五臓六腑+心包・三焦の12個に対応する12本の経脈で構成されます。

陰陽経脈対応臓腑走行
手の太陰肺経胸→手の親指
手の陽明大腸経大腸手の人差し指→顔
足の陽明胃経顔→足の第2趾
足の太陰脾経足の親指→胸
手の少陰心経胸→手の小指
手の太陽小腸経小腸手の小指→顔
足の太陽膀胱経膀胱顔→足の小趾
足の少陰腎経足の小趾→胸
手の厥陰心包経心包胸→手の中指
手の少陽三焦経三焦手の薬指→顔
足の少陽胆経顔→足の第4趾
足の厥陰肝経足の親指→胸

この12本は 陰経6本+陽経6本 でセットになっていて、互いに表裏関係を持っています。たとえば肺経(陰)と大腸経(陽)はペア、というように。

あざらし

12本全部覚える必要はないけど、「内臓と体表は経絡でつながっている」という感覚があると、東洋医学が一気に身近になります。


奇経八脈(きけいはちみゃく)

十二正経のほかに、奇経八脈 と呼ばれる8本の経脈があります。臓腑と直接結びついていないため「奇」(変則)と呼ばれます。

奇経八脈は、十二正経が満タンになったときに気血を貯蔵したり、逆に不足したときに供給したりする 調整池のような役割 を果たします。

  • 督脈(とくみゃく):背中の正中線を走る。陽の経脈を統括
  • 任脈(にんみゃく):腹側の正中線を走る。陰の経脈を統括
  • 衝脈(しょうみゃく):気血の海と呼ばれる
  • 帯脈(たいみゃく):唯一横に走る経脈。腰回りをベルト状に巡る
  • 陰維脈・陽維脈・陰蹻脈・陽蹻脈:各経を連絡する補助的な脈

臨床的にとくに重要なのは 督脈と任脈。この2本は十二正経と並ぶ重要経脈とされ、合わせて十四経と呼ぶこともあります。


経穴(けいけつ)とは

経穴は、いわゆる 「ツボ」 のことです。経絡上に並ぶ気血の出入り口と考えてください。

WHO(世界保健機関)が認定している経穴は 361穴。これは2006年のWHO/WPRO標準経穴部位国際標準化で定められたものです。経穴ごとに役割があり、内臓や経絡の状態を反映したり、刺激によって状態を改善したりすると考えられています。

経穴の分類

  • 正穴:十四経上にある経穴。361穴。
  • 奇穴:経絡には属さないが効果が認められているツボ。
  • 阿是穴(あぜけつ):押して痛い・気持ちよい場所。固定された位置はなく、その人のその時の体調で決まる。

阿是穴の発想は面白くて、「教科書通りのツボ位置」より「本人が反応する場所」を優先する、というのが東洋医学の柔軟さを表していると思います。


整形外科でよく使う経穴

361穴すべてを覚えるのは現実的ではないので、整形外科領域で頻出のものをいくつか紹介します。

経穴所属経絡位置主な適応
合谷(ごうこく)手の陽明大腸経手の第1・第2中手骨の間頭痛・歯痛・肩こり・万能ツボ
足三里(あしさんり)足の陽明胃経膝下外側、脛骨外側3寸胃腸・全身倦怠・膝痛
三陰交(さんいんこう)足の太陰脾経内くるぶしの上3寸婦人科症状・冷え・むくみ
肩井(けんせい)足の少陽胆経肩の中央肩こり・首こり
大椎(だいつい)督脈第7頚椎棘突起下頚部痛・発熱
腰陽関(ようようかん)督脈第4腰椎棘突起下腰痛・坐骨神経痛
陽陵泉(ようりょうせん)足の少陽胆経腓骨頭前下方膝痛・坐骨神経痛・筋拘縮
委中(いちゅう)足の太陽膀胱経膝窩横紋の中央腰痛・膝痛・坐骨神経痛

整形外科外来で運動器疼痛を診ていると、トリガーポイント注射で狙う筋肉の圧痛点と、経絡上のツボの位置が かなりの確率で一致する ことに気づきます。経験的に効くポイントを、東洋医学と西洋医学が別ルートから記述しているのだと思います。


経絡治療の考え方

経絡治療の基本は、経絡の気の流れの過不足を整える ことです。気の流れが滞れば「実(じつ)」、不足すれば「虚(きょ)」と表現します。

  • 実証への対処:滞っている気を流す(瀉法/しゃほう)
  • 虚証への対処:不足している気を補う(補法/ほほう)

鍼灸では、同じツボに対しても 刺し方・捻り方・留針時間 を変えることで、瀉法にも補法にもなります。ここが鍼灸が「術」と呼ばれる所以ですね。

あざらし

整形外科で言う「ハイドロリリース」「トリガーポイント注射」も、見方を変えれば経絡治療の現代版と言えるかもしれません。アプローチは違っても、狙うポイントが近いことが多い。


まとめ

  • 経絡=気血が全身を巡るネットワーク。十二正経+奇経八脈で構成される。
  • 経穴=経絡上のツボ。WHO認定で361穴ある。
  • 経絡治療は、気の流れの過不足(実と虚)を整えるのが基本。
  • 整形外科でも、合谷・足三里・委中など覚えておくと役立つ場面が多い。

次回は 東洋医学概論⑤ 病因論(六淫・七情) について解説します。「なぜ病気になるのか」を東洋医学がどう捉えているか、外因と内因に分けて整理していきます。

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