これまで①東洋医学とは、②気・血・津液、③蔵相学説と五臓六腑、④経絡・経穴、と東洋医学の基礎構造を整理してきました。
今回は 「なぜ病気になるのか」、つまり病因論について解説します。
東洋医学では、病因を大きく 外因(六淫)・内因(七情)・不内外因 の3つに分類します。
あざらし西洋医学だと「ウイルス感染」「自己免疫」「遺伝」など物質的な原因を考えますが、東洋医学は自然環境・感情・生活習慣まで含めて病因を捉えるのが特徴です。
病因の3分類
| 分類 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 外因 | 外部環境から侵入する邪気 | 六淫(風・寒・暑・湿・燥・火) |
| 内因 | 感情・精神面の変動 | 七情(喜・怒・憂・思・悲・恐・驚) |
| 不内外因 | 内因・外因以外 | 飲食不節、労倦、外傷、房事過多など |
この3つは独立しているわけではなく、しばしば相互に絡み合います。たとえばストレスで肝気が滞り(七情)、それが体の防衛力を下げて風邪をひきやすくする(六淫)、というような流れです。
六淫(りくいん):外から侵入する6つの邪気
六淫とは、自然界の 風・寒・暑・湿・燥・火 という6つの気が、過剰になったり季節外れに現れたりして、人体に害を与える状態のことです。
通常、これら6つの気は 六気(りっき) と呼ばれ、自然の正常な気候現象。それが過剰になって「邪」となったときに「淫」(過剰の意)と呼ばれ、病気を起こす要因になります。
1. 風邪(ふうじゃ)
特徴:軽く、上昇しやすく、変化が早い。「百病の長」とも呼ばれる。
主な症状:頭痛、悪寒、発熱、鼻づまり、めまい、関節痛の遊走性
季節:春に多い
風は他の邪気と結びついて侵入することが多く、風寒・風熱・風湿などの形で発症します。「すべての病気の入り口」と言われるのもこのため。
2. 寒邪(かんじゃ)
特徴:陰の性質。凝滞させ、収縮させる。
主な症状:強い悪寒、無汗、四肢の冷え、関節痛(固定性)、腹痛、下痢
季節:冬に多い
寒邪が経絡に侵入すると、気血の流れが滞って痛みが生じます。整形外科で「冬になると古傷が痛む」というのは、寒邪の凝滞作用で説明できます。
3. 暑邪(しょじゃ)
特徴:陽の性質。熱を発し、津液を消耗する。
主な症状:高熱、多汗、口渇、倦怠感、意識障害(熱中症)
季節:夏の盛りに限定される
暑邪は夏季にのみ現れる季節限定の邪気。湿と結びつくと「暑湿」となり、夏バテのだるさを引き起こします。
4. 湿邪(しつじゃ)
特徴:重く、粘り、停滞しやすい。
主な症状:体の重だるさ、関節痛(重く動かしにくい)、浮腫、消化不良、下痢、湿疹
季節:梅雨・長夏(夏の終わり)に多い
湿邪は除去しにくく、長引きやすいのが厄介な点。「湿は脾を困らせる」とされ、消化器症状を伴うことが多いです。
あざらし日本の梅雨時期、なんとなく体が重くてだるい感じ、あれは湿邪の典型。整形外科でも、雨の日に膝や腰が痛むという訴えは「湿邪が関節に滞っている」と東洋医学では説明します。
5. 燥邪(そうじゃ)
特徴:乾燥させ、津液を消耗する。
主な症状:皮膚の乾燥、口・鼻・喉の渇き、空咳、便秘
季節:秋に多い
秋の乾燥した気候が肺と皮膚を傷つけます。「燥は肺を傷る」と覚えるとシンプル。
6. 火邪(かじゃ)
特徴:陽の極み。炎上し、津液を焼く。
主な症状:高熱、煩躁、口渇、便秘、出血傾向、皮膚の発赤
季節:通年だが夏に多い
火邪は暑邪より強烈で、外から侵入する場合と、体内で気が鬱滞して生じる場合(鬱火)があります。慢性的なストレスから生じる「肝火上炎」などは後者の代表例。
六淫まとめ表
| 邪気 | 性質 | 季節 | 代表症状 |
|---|---|---|---|
| 風 | 軽・遊走 | 春 | 頭痛・悪寒・鼻症状 |
| 寒 | 凝滞・収縮 | 冬 | 強悪寒・固定痛 |
| 暑 | 熱・消耗 | 夏 | 高熱・多汗・口渇 |
| 湿 | 重・停滞 | 梅雨 | だるさ・浮腫・下痢 |
| 燥 | 乾燥 | 秋 | 皮膚乾燥・空咳 |
| 火 | 炎上 | 通年 | 高熱・出血・煩躁 |
七情(しちじょう):内から起こる7つの感情
七情は、人間の正常な感情である 喜・怒・憂・思・悲・恐・驚 の7つ。これらが過剰になったり長く続いたりすると、対応する臓腑を傷つけて病気を起こすと考えます。
| 感情 | 傷つける臓 | 過剰時の症状 |
|---|---|---|
| 喜(よろこび) | 心 | 動悸、不眠、興奮、精神錯乱 |
| 怒(いかり) | 肝 | 頭痛、めまい、目の充血、高血圧 |
| 憂(うれい) | 肺 | 息切れ、咳、倦怠感 |
| 思(おもい) | 脾 | 食欲不振、消化不良、不眠 |
| 悲(かなしみ) | 肺 | 涙、息切れ、声のかすれ |
| 恐(おそれ) | 腎 | 失禁、腰のだるさ、不眠 |
| 驚(おどろき) | 心・腎 | 動悸、パニック、不眠 |
七情と現代医学の接点
「感情が臓器を傷つける」と聞くと非科学的に感じるかもしれませんが、現代医学でも次のような対応関係が知られています。
- 怒り→肝:怒りで自律神経が乱れ、血圧上昇・肝機能異常を起こすことがある
- 思い悩み→脾:ストレスで胃腸機能が低下する(過敏性腸症候群、機能性ディスペプシア)
- 恐れ→腎:強い恐怖で失禁、副腎皮質ホルモンの乱れ
- 喜び(過剰)→心:興奮による不整脈、たこつぼ型心筋症
ストレス医学と東洋医学は、別ルートで似た結論にたどり着いているとも言えます。
あざらし「病は気から」というのは日本でも昔から言われますが、これは七情論の影響なんですよね。感情のコントロールが健康に直結するという発想は、現代でも十分通用します。
不内外因(ふないがいいん)
六淫・七情に当てはまらない病因をまとめて「不内外因」と呼びます。
| 分類 | 内容 |
|---|---|
| 飲食不節 | 暴飲暴食、偏食、不衛生な食事 |
| 労倦 | 過労、運動不足、長時間労働 |
| 房事過多 | 性的活動の過剰 |
| 外傷 | 打撲、切傷、虫刺され、毒物 |
| 寄生虫 | 寄生虫感染 |
整形外科領域では、労倦(過労・運動不足)と 外傷 が日常的に関わる病因です。
東洋医学的に「労倦」を診ると、「肉体的疲労は脾を傷る」「精神的過労は心を傷る」「長期の労働は腎を傷る」というように、何が消耗しているかで対応する臓腑が変わります。
病因論の臨床的な使い方
患者さんの不調を診るとき、東洋医学では「いつから始まったか」「季節との関連」「生活背景」「感情のストレス」を必ず聞きます。
たとえば腰痛ひとつとっても、
- 寒い日に悪化する → 寒邪を疑う → 温める治療
- 雨の日に悪化する → 湿邪を疑う → 利水の治療
- ストレスで悪化する → 肝気鬱結を疑う → 疏肝の治療
- 長時間労働後に悪化する → 腎虚を疑う → 補腎の治療
というように、同じ症状でも病因が違えば治療方針が変わるのが東洋医学の面白いところです。
整形外科で言う「変形性関節症」「腰椎椎間板ヘルニア」のような診断とは別の軸で患者を見るので、現代医学と東洋医学を併用すると視野が一気に広がります。
まとめ
- 病因は 外因(六淫)・内因(七情)・不内外因 の3つに分類される
- 六淫は風・寒・暑・湿・燥・火の6つで、自然環境由来の邪気
- 七情は感情の過剰で、対応する臓腑を傷つける
- 不内外因は飲食・労倦・外傷など、それ以外の要因
- 同じ症状でも病因の違いで治療方針が変わるのが東洋医学の特徴
次回は 東洋医学概論⑥ 四診(望・聞・問・切) について解説する予定です。東洋医学の診察手順を体系的に整理していきます。
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