これまで①東洋医学とは、②気・血・津液、③蔵相学説と五臓六腑、と東洋医学の基礎理論を整理してきました。
今回は、東洋医学の臨床で必ず登場する 経絡(けいらく)と経穴(けいけつ) について解説します。鍼灸治療の理論的な土台ですね。
あざらし解剖学で言う神経・血管・リンパ・筋膜のネットワークに、ちょっと近いような違うような…という不思議な概念。最初は「ふ〜ん」くらいで読んでもらえれば十分です。
経絡とは
経絡とは、気・血・津液が全身を巡るために通る通路のこと。
東洋医学では、人体は五臓六腑と体表とが経絡で結ばれていて、内臓の不調が体表のツボに反映されたり、逆に体表のツボへの刺激が内臓に作用したりすると考えます。
経絡は大きく 経脈(縦に流れる本流)と 絡脈(経脈から枝分かれする支流)に分かれます。
- 経脈:縦方向に走る主要な経路。十二正経+奇経八脈で構成される
- 絡脈:経脈から分かれて全身に広がる細かい支流
イメージとしては、経脈が新幹線・在来線の主要路線、絡脈がそこから細かく分岐するバス路線、という感じです。
十二正経(じゅうにせいけい)
経脈のメインルートが 十二正経 です。五臓六腑+心包・三焦の12個に対応する12本の経脈で構成されます。
| 陰陽 | 経脈 | 対応臓腑 | 走行 |
|---|---|---|---|
| 手の太陰 | 肺経 | 肺 | 胸→手の親指 |
| 手の陽明 | 大腸経 | 大腸 | 手の人差し指→顔 |
| 足の陽明 | 胃経 | 胃 | 顔→足の第2趾 |
| 足の太陰 | 脾経 | 脾 | 足の親指→胸 |
| 手の少陰 | 心経 | 心 | 胸→手の小指 |
| 手の太陽 | 小腸経 | 小腸 | 手の小指→顔 |
| 足の太陽 | 膀胱経 | 膀胱 | 顔→足の小趾 |
| 足の少陰 | 腎経 | 腎 | 足の小趾→胸 |
| 手の厥陰 | 心包経 | 心包 | 胸→手の中指 |
| 手の少陽 | 三焦経 | 三焦 | 手の薬指→顔 |
| 足の少陽 | 胆経 | 胆 | 顔→足の第4趾 |
| 足の厥陰 | 肝経 | 肝 | 足の親指→胸 |
この12本は 陰経6本+陽経6本 でセットになっていて、互いに表裏関係を持っています。たとえば肺経(陰)と大腸経(陽)はペア、というように。
あざらし12本全部覚える必要はないけど、「内臓と体表は経絡でつながっている」という感覚があると、東洋医学が一気に身近になります。
奇経八脈(きけいはちみゃく)
十二正経のほかに、奇経八脈 と呼ばれる8本の経脈があります。臓腑と直接結びついていないため「奇」(変則)と呼ばれます。
奇経八脈は、十二正経が満タンになったときに気血を貯蔵したり、逆に不足したときに供給したりする 調整池のような役割 を果たします。
- 督脈(とくみゃく):背中の正中線を走る。陽の経脈を統括
- 任脈(にんみゃく):腹側の正中線を走る。陰の経脈を統括
- 衝脈(しょうみゃく):気血の海と呼ばれる
- 帯脈(たいみゃく):唯一横に走る経脈。腰回りをベルト状に巡る
- 陰維脈・陽維脈・陰蹻脈・陽蹻脈:各経を連絡する補助的な脈
臨床的にとくに重要なのは 督脈と任脈。この2本は十二正経と並ぶ重要経脈とされ、合わせて十四経と呼ぶこともあります。
経穴(けいけつ)とは
経穴は、いわゆる 「ツボ」 のことです。経絡上に並ぶ気血の出入り口と考えてください。
WHO(世界保健機関)が認定している経穴は 361穴。これは2006年のWHO/WPRO標準経穴部位国際標準化で定められたものです。経穴ごとに役割があり、内臓や経絡の状態を反映したり、刺激によって状態を改善したりすると考えられています。
経穴の分類
- 正穴:十四経上にある経穴。361穴。
- 奇穴:経絡には属さないが効果が認められているツボ。
- 阿是穴(あぜけつ):押して痛い・気持ちよい場所。固定された位置はなく、その人のその時の体調で決まる。
阿是穴の発想は面白くて、「教科書通りのツボ位置」より「本人が反応する場所」を優先する、というのが東洋医学の柔軟さを表していると思います。
整形外科でよく使う経穴
361穴すべてを覚えるのは現実的ではないので、整形外科領域で頻出のものをいくつか紹介します。
| 経穴 | 所属経絡 | 位置 | 主な適応 |
|---|---|---|---|
| 合谷(ごうこく) | 手の陽明大腸経 | 手の第1・第2中手骨の間 | 頭痛・歯痛・肩こり・万能ツボ |
| 足三里(あしさんり) | 足の陽明胃経 | 膝下外側、脛骨外側3寸 | 胃腸・全身倦怠・膝痛 |
| 三陰交(さんいんこう) | 足の太陰脾経 | 内くるぶしの上3寸 | 婦人科症状・冷え・むくみ |
| 肩井(けんせい) | 足の少陽胆経 | 肩の中央 | 肩こり・首こり |
| 大椎(だいつい) | 督脈 | 第7頚椎棘突起下 | 頚部痛・発熱 |
| 腰陽関(ようようかん) | 督脈 | 第4腰椎棘突起下 | 腰痛・坐骨神経痛 |
| 陽陵泉(ようりょうせん) | 足の少陽胆経 | 腓骨頭前下方 | 膝痛・坐骨神経痛・筋拘縮 |
| 委中(いちゅう) | 足の太陽膀胱経 | 膝窩横紋の中央 | 腰痛・膝痛・坐骨神経痛 |
整形外科外来で運動器疼痛を診ていると、トリガーポイント注射で狙う筋肉の圧痛点と、経絡上のツボの位置が かなりの確率で一致する ことに気づきます。経験的に効くポイントを、東洋医学と西洋医学が別ルートから記述しているのだと思います。
経絡治療の考え方
経絡治療の基本は、経絡の気の流れの過不足を整える ことです。気の流れが滞れば「実(じつ)」、不足すれば「虚(きょ)」と表現します。
- 実証への対処:滞っている気を流す(瀉法/しゃほう)
- 虚証への対処:不足している気を補う(補法/ほほう)
鍼灸では、同じツボに対しても 刺し方・捻り方・留針時間 を変えることで、瀉法にも補法にもなります。ここが鍼灸が「術」と呼ばれる所以ですね。
あざらし整形外科で言う「ハイドロリリース」「トリガーポイント注射」も、見方を変えれば経絡治療の現代版と言えるかもしれません。アプローチは違っても、狙うポイントが近いことが多い。
まとめ
- 経絡=気血が全身を巡るネットワーク。十二正経+奇経八脈で構成される。
- 経穴=経絡上のツボ。WHO認定で361穴ある。
- 経絡治療は、気の流れの過不足(実と虚)を整えるのが基本。
- 整形外科でも、合谷・足三里・委中など覚えておくと役立つ場面が多い。
次回は 東洋医学概論⑤ 病因論(六淫・七情) について解説します。「なぜ病気になるのか」を東洋医学がどう捉えているか、外因と内因に分けて整理していきます。
コメント