医師として独立を考える際、まず選択肢に上がるのが「医療法人」の設立。しかし、その仕組みは複雑で、個人開業医から法人化する際には、費用・手続き・期間など様々な準備が必要。この記事では、医療法人設立の条件・流れ・費用を整理しつつ、一般社団法人との違いについても詳しく解説。
目次
1. 医療法人とは?
医療法に基づき設立される法人で、医療を安定的に提供するための組織形態。個人経営とは異なり、法人としての社会的信用や資金調達力が強化される一方、自由度は制限される。
2. 医療法人の設立条件
要件 | 内容 |
---|---|
設立時期 | 各都道府県が定める「設立認可受付期間(年1~2回)」のみ申請可能 |
人数要件 | 設立者(開設者)1名以上、理事3名以上(理事長は原則医師)、監事1名 |
定款・諸規程 | 公正証書による定款作成が必要。事業計画や診療報酬見込みの提出も求められる |
財務要件 | 設備・運転資金を含め、健全な財務計画が必要(開業初年度黒字が望ましい) |
3. 設立までのスケジュール(目安)
期間 | 内容 |
---|---|
0ヶ月 | 計画開始・顧問税理士・社労士の選定 |
~2ヶ月 | 書類準備(定款、事業計画、資金繰り表など) |
2~4ヶ月 | 所轄保健所・厚生局・県への事前相談、書類提出 |
4~6ヶ月 | 都道府県の認可(※議会承認が必要な場合あり) |
6~8ヶ月 | 法人登記、保険医療機関指定手続きなど実務開始 |
※早くても半年程度、通常は8ヶ月~1年を見込むのが現実的。
4. 設立費用の目安
項目 | 金額 |
---|---|
顧問報酬(税理士・社労士) | 約50〜100万円 |
登記・公証人費用 | 約20〜30万円 |
書類作成代行(行政書士等) | 約30〜80万円 |
設立時資本金(任意) | 数百万円〜(個人資産を移管) |
合計 | 100〜200万円程度(規模により変動) |
5. 医療法人のメリット・デメリット
メリット
- 所得分散(節税効果)
- 社会的信用力の向上
- 事業承継が可能(持分なし法人ならスムーズ)
- 法人名義で資金調達や不動産取得が可能
デメリット
- 設立・運営に手間とコスト
- 利益の個人取り出しが制限される(役員報酬や退職金などに限られる)
- 自由診療や新規事業への展開は制限されがち(非営利制限)
6. 一般社団法人との違いと使い分け
比較項目 | 医療法人 | 一般社団法人 |
---|---|---|
法的根拠 | 医療法 | 一般社団法人法 |
主な用途 | 医療機関の経営 | 多目的(医療コンサル・持株会社など) |
出資・資本 | 現在は出資持分なしの設立のみ | 出資という概念なし(社員制) |
営利性 | 非営利のみ(利益配当不可) | 非営利だが傘下に株式会社可 |
設立時期 | 年1~2回の申請機会のみ | 随時設立可(2人以上) |
活用例 | クリニック法人化 | 医療法人グループの上位組織、資産保有会社など |
7. 医療法人と一般社団法人を組み合わせるとどうなる?
実は、医療法人の上に一般社団法人を置くことで、グループ経営や資産保全を行うスキームが形成可能。
例:
- 一般社団法人Aが医療法人Bの理事を兼任
- 一般社団法人Aの下に医療法人・株式会社(コンサル・不動産管理)などを持つ
- 医療法人の利益を社団傘下の株式会社で吸い上げることは不可(脱法スキームに該当)
このようにグループ経営を考えるなら、法的・税務的な整合性を取ることが極めて重要。
まとめ
- 医療法人設立は年1回のタイミングを逃すと1年遅れることもある
- 設立には6ヶ月以上の準備と100〜200万円の初期費用が必要
- 節税・承継メリットは大きいが、自由度は制限される
- 一般社団法人との組み合わせで資産管理やグループ経営も可能
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