外来しているとたまーに前骨間神経麻痺の患者さんに出会います。
先日も一人現れましたので、改めてまとめてみました。
日本整形外科学会のホームページにも簡単に解説されています。
前骨間神経麻痺とは
前骨間神経は、正中神経の最も長い分岐で、肘窩で正中神経本幹から分かれ円回内筋の上腕頭と尺骨頭の間を通って
長母指屈筋、深指屈筋の橈側、方形回内筋を支配する純運動神経(下図)。
Jounal of Clinical Rehabilitation Vol.29 No.4.2020.4 より
この前骨間神経が骨折などの外傷や周囲組織の絞扼、神経炎で障害されて麻痺をきたすものをいいます。
神経炎によるものを特発性前骨間神経麻痺と呼ぶことが多いみたいです。
以下、‘‘特発性‘‘前骨間神経麻痺について解説していきます。
症状
図のように典型的には長母指屈筋、深指屈筋(示指,中指)、方形回内筋が麻痺するので、母指IP関節および示指DIP関節の屈曲が出来なくなります。
これがいわゆるtear drop sign(母指示指でOKサインを作らせると尖った形になる)の原因になります(下図)。
図:tear drop sign
Jounal of Clinical Rehabilitation Vol.29 No.4.2020.4 より
典型例では母指対立は障害されず、前骨間神経は純粋な運動神経なので、感覚障害を伴いません。
手根管症候群と違って母指級の萎縮がありません。
鑑別疾患として、円回内筋症候群や正中神経高位麻痺が挙げられます。
特徴
①誘因なく突然発症することが多い
②誘因としてウィルス感染、ストレス酷使、外傷等があることが多い
③発症前後に1~2週間程度の前駆痛を伴うことが多い=約20%
④特有な麻痺形態をとり、感覚障害は少ない
⑤自然回復することが多い
⑥神経外剥離術ではその責任神経の絞拒がないことが多い
などなど
原因・くびれ
周囲の組織に絞扼されたりの原因もありますが、神経束の「くびれ」が原因とする意見があります。
神経束の「くびれ」は神経本体自体はくびれず、単一の神経束がくびれることもあります。
「くびれ」の好発部位は内側上顆の近位0~6㎝とされています。
また、くびれにも種類があるようで、参考までに。
MB OrthopVoi,29 No.11 2016より
このくびれですが、50歳以下の症例に好発、絞扼性神経障害と違って日数経過とともに著名化しないそうです。
確認すべき身体所見
○回内筋症候群との鑑別を念頭に、Spinner徴候とpronator compression test を確認する。
Spinner徴候
①前腕回内/手関節屈曲の抵抗運動時=前腕近位部の痩痛が増悪した場合、円回内筋部での正中神経圧迫の徴候。
②前腕回外/肘関節屈曲の抵抗運動時:前腕近位部の疾痛が増悪した場合、上腕二頭筋腱膜部での正中神経圧迫の徴候。
③中指指浅指屈筋の抵抗運動時:前腕近位部の疾痛が増悪した場合、浅指屈筋腱弓部での正中神経圧迫の徴候。
MB OrthopVoi,29 No.11 2016より
pronator compression test
・正中神経円回内筋入口部の30秒圧迫で症状が増悪するか確認する。
確認したい検査
○超音波検査、MRI
⇒占拠性病変の有無と腱断裂の鑑別。「くびれ」の検索にも有効。
○神経伝道速度検査
○針筋電図
⇒長母指屈筋、方形回内筋の脱神経所見、自動収縮の有無、波形、振幅、干渉などをチェック。
治療
発症早期は保存加療。
3-6か月経過しても自然回復しない場合は手術を検討。
以下参照
MB OrthopVoi,29 No.11 2016 より
以上です。また手術をやることがあれば手術についても追記していきます。
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