手関節不安定症で生じるSLAC wrist 。
専門医試験を受けるまで、存在すらろくに知りませんでした。
外国だと症例が結構あるみたいですが、日本だと症例が少ないようです。
日本では特にマニアックな分野。
SLAC/SNAC wrist とは
SLAC (scapholunate advanced collaps) wrist とは、「舟状月状骨間靭帯などの手根間靭帯損傷に伴い、徐々に手根配列が崩れ変形性手関節症に陥る状態」を指します。
中でも、舟状骨偽関節に伴い発症するものをSNAC(scaphoid nonunion advanced collapse)wristと呼びます。
前回紹介した舟状月状骨解離などで、近位・遠位手根配列間の不適合性が出て関節症になります。
なんで靭帯きれると関節症になるんだろう?
という疑問が生じます。
原因はとしてWatsonのスプーン原理などいろいろ言われてますが、厳密にはまだ解明されてないみたい。
分類
Watsonちゃんが定義した「Watson分類」がありますが、SLAC/SNACで病態が異なるので、2者間でもそれぞれ分かれます。
https://musculoskeletalkey.com/slac-and-snac-wrist/より
ステージ1:まず橈骨茎状突起と舟状骨遠位に関節症変化が生じる
ステージ2:舟状骨近位部に関節症変化が生じる
ステージ3:さらに有頭骨が舟状月状骨間へ落ち込み、有頭月状骨間に関節症変化が生じる
一方、SNACでは舟状骨近位骨片と橈骨関節面に関節症変化が生じにくいことが特徴です。
治療法
ステージ別治療法
○SLAC/SNAC wrist Ⅰの場合
⇒様子見。疼痛あれば橈骨茎状突起部の骨棘切除をやることも
○SLAC/SNAC wrist Ⅱの場合
⇒近位手根列切除術(PRC)または部分手関節固定術(four-cornner固定)
・近位手根列切除はその名の通り、近位手根列(舟状骨、月状骨、三角骨)を切除する。
・部分手関節固定術は、舟状骨近位部を切除+他有頭骨、月状骨、有鈎骨、三角骨間を固定。
○SLAC/SNAC wrist Ⅲ
⇒近位・遠位手根列間の関節症性変化が出ると、近位手根列切除術は適応がなくなります。
よって、部分手関節固定術のみ適応となります。
部分手関節固定術(Four-Corner fusion)
部分手関節固定術は、舟状骨近位部を切除+他有頭骨、月状骨、有鈎骨、三角骨間を固定する術式。
特徴は、手根骨を温存できる、手技が煩雑、偽関節のリスクあり。
手技面では、DISI変形(背屈変位した月状骨)をちゃんと戻さないと手関節背屈可動域が低下します。
(月状骨掌側に付着する手根靭帯が突っ張るため)
固定具はK-wire、DTJ screw、Plateなどありますが、可動域や骨癒合などの有意差はありません。
手根骨を温存できるので、PRCと比較して握力が維持されやすいとされています
(が、最近のシステマティックレビューでは有意差ないと報告が多い)
可動域は健側比較で30%程度低下します
他は、有頭骨-月状骨固定+舟状骨・三角骨切除的な術式も出てきてるようで、成績はまずまず。
上記2つの手術より長期成績は不明なので、今後の動向を見ていきましょう。
ちなみに僕は助手で2例ほど手術に入りましたが、症例も少ないので今後執刀することはないと思います。
近位手根列切除術(PRC)
近位手根列切除は、近位手根列(舟状骨、月状骨、三角骨)を切除する術式。
近位手根列を切除しちゃうって、雑じゃね??
って思うかもしれませんが、意外と成績は部分手関節固定術と大差ない。
むしろ可動域は部分関節固定術に勝る傾向があります。
理由は近位手根列を切除することで、軟部が弛緩するためでしょう。
ただし、PRC10年経過のレビューを見ると関節軟骨はほぼ消失しています。
手根関節と手関節の不適合性があるので当然ですね。
関節なくても痛み消えれば問題アリマセーン!
という海外医師の意見も聞こえてきますが、実際文献上のデータは悪くありません
ある意味外人らしい術式ではあります。
術式が簡単で偽関節のリスクがないのはメリット。
40歳以下の若年層で経過が不良という報告もありますので、個人的には部分手関節固定術でトライする気持ちを持ちつつ高齢であればPRCを行う、、という感じでよいと思ってます。
以上、簡単ではありますがSLAC/SNAC wristについてまとめてみました。
参考になれば幸いです。
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