どーも、こんにちは。
先日、胸郭出口症候群の患者さんが来ました。
正直、あんまりよくわかってませんでした。
胸郭出口症候群(TOS)とは
まず定義。教科書には
胸郭出口症候群は,主に斜角筋三角部,肋鎖間隙小胸筋腱部において腕神経叢や鎖骨下動・静脈が圧迫・牽引ストレスを受け,頸部から上肢の疹痛,しびれ等の症状を生じる疾患
と書いてあります。
ここで問題になるのが、胸郭出口症候群と一言でいっても病態がさまざまってことです。
なで肩の女性や筋骨隆々な男性に多いとされています。
病型
病型は3つ。
・血管性(動脈性、静脈性)
・神経性(True、disputed)
・混合性
さらに神経型は圧迫型、牽引型、混合型に分類されます。
圧迫型はムキムキの男性、牽引型はなで肩女性に多く見られるそうですが、混合型が一番多いみたい。
圧迫箇所
Clinical Rehabilitation vol28.No.12 2019 より
主に斜角筋三角部、小胸筋腱部、肋鎖間隙の三か所が原因になります。
イメージ
なで肩や姿勢異常などにより斜角筋に緊張が生じ、斜角筋三角部などで神経・血管が圧迫するために生じます。
診断
病態が多彩なのでさまざまな訴えがありますが、上肢のしびれ症状がもっともおおい。
中でもC8・T1神経障害がでやすい
誘発テストとしてモーレイテストが有名ですが、圧迫型と牽引型でも微妙に陽性になりやすい箇所が変わるようです。
関節外科vol.38 No.10 .2019 より
あと重要なのは、胸郭出口症候群は除外診断的に診断されるということ。
胸郭出口症候群はさまざまな病態があって、なかなか診断も難しい。
まずほかの疾患を否定してからの除外診断になります。
参考までに胸郭出口症候群の診断アルゴリズム。
おまけのワンポイントアドバイス
上腕内側の感覚障害の有無を調べるのも有用な鑑別方法。
上腕内側はTh2レベルの支配ですが、腕神経叢にこの領域は入らないので頸椎症との鑑別に使えます。
誘発テスト
以下、Clinical Rehabilitation vol28.No.12 2019 より引用。
モーレイテスト(Morley’s test)
目的・意義:斜角筋三角部での腕神経叢の過敏性を評価
手技・方法:鎖骨上窩部(斜角筋三角部)を検者の指で押さえたときに、圧痛や患側の前胸部や上肢への放散痛を生じるかを確認する
評価・判断:圧痛や患側の前胸部や上肢への放散痛を生じたら陽性
Morleyは経験的に特異度が高いからちゃんと見るように
と、師匠は言っておりました。
アドソンテスト(Adson’s test)
目的・意義:斜角筋三角部での鎖骨下動脈の圧迫を確認する。血管性TOSや圧迫型TOSで陽性。
手技・方法:被検者を座位とし、検者は被検者の患側上肢の穫骨動脈上に指を置き、被検者に頸椎伸展位で患側へ回旋させ深呼吸させたとき(前斜角筋が緊張する)の橈骨動脈の拍動の変化を確認。
評価・判断:橈骨動脈の拍動が減弱または消失したら陽性
ライトテスト(Wright’s test)
目的・意義:肋鎖間隙部または小胸筋腱部での鎖骨下動脈の圧迫を確認する。血管性TOSや圧迫型TOSで陽性。
手技・方法:被検者を座位とし、被検者の榛骨動脈上に検者の指を置き、被検者の上肢を肩関節90度外転90度外旋位、肘関節90度屈曲位に保持した時の橈骨動脈の拍動の変化を確認。
評価・判断:橈骨動脈の拍動が減弱または消失したら陽性
実際はさらに伸展させて(肩を引いて)やってます。
古典的wright testは動脈拍動の減弱の有無を見てますが、ここではさらにしびれの有無についてもチェック+記載しておくことが大事だよ
と、師匠は言ってました。
アレンテスト(Allen’s test)
目的・意義:斜角筋三角部での鎖骨下動脈の圧迫を確認する。血管性TOSや圧迫型TOSで陽性となる。
手技・方法:被検者を座位とし、被検者の穫骨動脈上に検者の指を置き、被検者の上肢を肩関節90度外転90度外旋位、肘関節90度屈曲位に保持し、検者に頸椎を反対側へ回旋させて橈骨動脈の拍動の変化を確認。
評価・判断:橈骨動脈の拍動が減弱または消失したら陽性
ルーステスト(Roos’s test)
目的・意義:肋鎖間隙部または小胸筋腱部での鎖骨下動脈の圧迫を確認する。血管性TOSや圧迫型TOSで陽性。
手技・方法:被検者を座位とし、両側の上肢を肩関節90度外転90度外旋位、肘関節90度屈曲位を保持して手指の屈曲伸展を3分間行わせる.
評価・判断:上肢のだるさや手指のしびれの出現で3分間持続できない場合陽性
これも観察しておきたいテストですねぇ
エデンテスト(Eden’s test
目的・意義:肋鎖間隙部での鎖骨下動脈の圧迫を確認する.牽引型TOSで陽性となる.
手技・方法:検者を座位とし,顎を引いて胸を張った姿勢をとらせ(肋鎖間隙を狭くする),検者は被検者の榛骨動脈上に指を置いて肩関節軽度伸展位で上肢を下方に牽引するか肩を下方へ押し下げて,橈骨動脈の拍動の変化を確認す
評価・判断:橈骨動脈の拍動が減弱または消失したら陽性
ハルステッドテスト(Halstead’s test)
目的・意義:肋鎖間隙部での鎖骨下動脈の圧迫を確認する。牽引型TOSで陽性。
手技・方法:検者を座位とし、顎を引いて胸を張った姿勢をとらせ、頸椎を反対側へ回旋させた状態で、検者は被検者の橈骨動脈上に指を置いて肩関節軽度外転位・伸展位で上肢を下方に牽引するか肩を下方へ押し下げて、橈骨動脈の拍動の変化を確認する。
評価・判断:橈骨動脈の拍動が減弱または消失したら陽性
肩甲帯下制・挙上テスト
目的・意義:斜角筋三角部や肋鎖間隙部での腕神経叢の圧迫を確認する。牽引型TOSで陽性となる。
手技・方法:検者を座位とし、被検者が検者の肩甲帯を押し下げたり、持ち上げたりして症状の変化をみる
評価・判断:肩甲帯を押し上げた時に症状の再現または増悪を認め、持ちあげたときに症状の軽快または消失を確認したら陽性。
師匠はこれも見てましたね。
ポイント
全部をやる必要はないけど「Morley test ,wright test ,Roos test ,肩甲帯下制・挙上テスト」は見ておこう。
治療
ひと昔前は狭窄部の圧迫を解除する目的で第一肋骨や鎖骨を削ったりする手術を行っていましたが、成績が安定しないので近年は装具療法+理学療法が治療のメインとなっています。
保存加療が無効な場合は手術加療も検討されますが、まずは保存加療からです。
私も何年も手術なんてやってないね
と、師匠も言っておりました。
装具療法
一般的には「熊本大式」の肩甲帯装具を着用します。
巻き肩(猫背様)になっている方が多いので姿勢の補正と肩甲帯の安定化を目的として使用します。
他には、胸郭出口症候群はなで肩の人も多いので、肩を挙上させる役割を持つ「つり上げ型装具」なるものも一部存在します。肩甲骨を挙上させることで斜角筋などの緊張を緩和させる効果もあります。
理学療法
理学療法ポイントは以下
①肩甲骨周囲の筋緊張や拘縮をほぐす
②肩甲骨周囲筋のバランス、肩甲上腕関節リズムを整える
③肩甲骨周囲筋の筋力強化で肩甲骨を安定化
④体幹も含めた筋力トレーニングで姿勢異常を補正
⑤生活指導
実際指導している理学療法士さんに聞いてきました
①肩甲骨周囲の筋緊張や拘縮をほぐす
まず、なで肩の女性なんかは患側の肩甲骨が下がっていることが多い。
また巻き肩も多い。
大胸筋や僧帽筋、肩甲骨周囲筋などが相対的に硬くなっていたり、緊張していることが多いのでほぐしていきます。
具体的には
大胸筋➡上腕骨付着部周囲を中心としたマッサージ、仰臥位で肩を外転/伸展させストレッチ。
肩甲骨背側の筋肉➡側臥位にして肩甲骨内側を持ち上げるように外転させ、肩甲骨を動かしてストレッチ
あとは、仰臥位で肩をぐるぐる回して肩甲骨のストレッチをやっていました。
肩甲骨周囲を柔らかくして、可動域をしっかり持たせるのが大事です。
②肩甲骨周囲筋のバランス、肩甲上腕関節リズムを整える
肩甲骨周囲のストレッチをやった上で。
相対的な肩甲骨周囲筋のアンバランスにより、肩関節挙上時に肩甲骨が下がる傾向があります。
座位で上肢を挙上させるときに、同時に肩甲骨が下がらないように保持または挙上させ、適切な上腕関節リズムで肩を挙上できるように訓練します。
自主トレとして、仰臥位で上肢挙上訓練を徐々に行います。仰臥位であれば重力がない分肩甲骨が下がりにくいですからね。
③肩甲骨周囲筋の筋力強化で肩甲骨を安定化、④体幹も含めた筋力トレーニングで姿勢異常を補正
巻き肩が多いので、大胸筋は緊張している傾向にあります。
肩甲骨に付着する筋肉で僧帽筋上部繊維、前鋸筋が作用が大きい。
そのため、この2つの筋肉をメインでバランスよく鍛えつつ、肩甲挙筋・小・大菱形筋などもサブで鍛えるというイメージで。
加えて体幹の筋力も鍛え、良い姿勢バランスを保てるようにします。
〇前鋸筋トレーニング
方法例
①手と膝を床につけて腕立て伏せの体勢。肘は伸展。
②胸椎を丸くし、おなかを下に突き出すようにする
③床を肩甲骨で押すようなイメージで保持
下記トレーニング法でもよいかもしれません。
〇僧帽筋を含めた肩甲骨周囲筋・背筋のトレーニング
➡パピーポジションよりも腕を前方に置いて、腕をひく力を入れつつ保持。要は匍匐(ほふく)前進や赤ちゃんのずり這いのイメージ
〇プランク
➡肩甲骨周囲筋・前鋸筋・腹筋など満遍なく鍛えられます。
教えてもらった理学療法士さんは上記3つをおすすめしてました。
⑤生活指導
デスクワークの方は猫背・巻き肩になりやすく注意が必要です。
姿勢が丸まらないようにデスクを高くしたり、パソコンを目線の高さに近づけるような工夫が必要です。
どこの筋肉が緊張・硬くなっているか、肩甲骨周囲筋力の低下、体幹バランスなどを適切に見極め、どこを中心にバランスよくトレーニングを指導できるかが、理学療法士さんの腕の見せ所ですね。
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