日本整形外科学会のホームページにも簡単に解説されています。
後骨間神経麻痺とは
橈骨神経は肘外側で深枝と浅枝に分かれます。
橈骨神経深枝が回外筋2頭の間から後方にもぐりこみ、後骨間神経へと名前を変えます。
橈骨神経深枝が通過する回外筋の間を「Frohse arcade=フローアーケード」とも呼ばれます。
グレイ解剖学より
この後骨間神経が骨折などの外傷や周囲組織の絞扼、神経炎で障害されて麻痺をきたすものをいいます。
後骨間神経麻痺=PIN(posterior interosseou nerve palsy)とも略されます。特発性後骨間神経麻痺のことを‘‘特発性=spontaneous‘‘を追加した「sPIN」と略されます。
以下、‘‘特発性‘‘後骨間神経麻痺について解説していきます。
症状
○後骨間神経の支配筋は
総指伸筋、小指伸筋、尺側手根伸筋、回外筋、長母指外転筋、短母指伸筋、長母指伸筋、示指伸筋、短橈側手根伸筋
後骨間神経は純粋な運動神経です。
橈骨神経麻痺と異なり手関節背屈の筋肉は保たれるので、手関節背屈は可能。長橈側手根伸筋で手関節背屈は可能ですが、短橈側手根伸筋が麻痺しているため橈屈傾斜になることも特徴。
指だけ伸ばせなくなるので、有名なDrop finger deformity(下図)を生じます
Drop finger deformity
肘部の急激な疼痛を前駆症状とすることが多い。
特徴
①誘因なく突然発症することが多い
②誘因としてウィルス感染、ストレス酷使、外傷等があることが多い
③発症前後に1~2週間程度の前駆痛を伴うことが多い=約20%
④特有な麻痺形態をとり、感覚障害は少ない
⑤自然回復することが多い
⑥神経外剥離術ではその責任神経の絞拒がないことが多い
などなど
原因・くびれ
周囲の組織に絞扼されたりの原因もありますが、神経束の「くびれ」が原因とする意見があります。
神経束の「くびれ」は神経本体自体はくびれず、単一の神経束がくびれることもあります。
「くびれ」の好発部位は、回外筋入口部の近位1~3㎝に好発。
また、くびれにも種類があるようで、参考までに。
MB OrthopVoi,29 No.11 2016より
このくびれですが、50歳以下の症例に好発、絞扼性神経障害と違って日数経過とともに著名化しないそうです。
確認すべき身体所見
他橈骨神経麻痺疾患の鑑別目的に
・橈骨管圧迫による症状増悪の有無確認
・橈骨神経浅枝の腕橈骨筋腱出口での圧痛の有無
は見ておく。
検査
○超音波検査、MRI
⇒占拠性病変の有無と腱断裂の鑑別。「くびれ」の検索にも有効。
○神経伝道速度検査
○針筋電図
⇒長母指屈筋、方形回内筋の脱神経所見、自動収縮の有無、波形、振幅、干渉などをチェック。
治療
完全麻痺と不全麻痺症例で治療成績に有意差がないとされており、不全麻痺だから軽症というわけではないようです。
また、麻痺が「くびれ」などが原因の特発性か、絞扼性が主の麻痺なのかは手術してみないとわかりません。
以下、治療方針の参考
MB OrthopVoi,29 No.11 2016 より
以上です。
病態としては前骨間神経麻痺と類似しているので、ひとまず症状の違いを認識すればいいですね。
前骨間神経麻痺同様、症例数も少なくまだまだ分からないことも多いようです。
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